【口腔機能低下症】

はじめに

お口の役割には主に、食べる・話す・呼吸するなどがありますが、お口に何らかの異常が生じるとこれらの役割が果たせなくなります。

お口の以上は、些細な衰えから始まりますが、そのまま放置すると全身へ悪影響を及ぼすこともあります。お口の機能が低下(租借・嚥下・構音・唾液・感覚)していく症状を口腔機能低下症といいます。加齢だけではなく、疾患や障害など様々な要因によって、口腔機能が複合的に低下している疾患です。
お口の機能低下を予防すると健康寿命延伸に大きく寄与することも分かってきました。また、早い段階から適切な対応をとれば改善も可能となります。

そのためにも、日頃からのお口の状態にも目を向け、気づきを得ることが大切です。健康寿命のためにもお口のメンテナンスは不可欠です。まずは、今のお口の状態を把握するとともにお口に対する意識を高めていきましょう。

『口腔衛生状態(口腔不潔)』

1.口腔不潔

舌の汚れを見ることによって、お口の清潔度を検査していきます。

  • 食べカスや汚れ、お口の中の細菌によって口臭の原因
  • 舌の汚れが厚くなることで、熱さや味を感じにくくなる原因
  • 誤嚥性肺炎の原因

〈口腔衛生状態不良(口腔不潔)ケア〉

  • 歯磨きは就寝前を含めて1日2回以上
  • 歯間ブラシやフロスを1日1回以上
  • 舌ブラシを使って舌の汚れを丁寧に落としましょう
  • ブクブクうがいをしっかり行い、汚れを吐き出しましょう

2.口腔乾燥

お口の中の粘膜湿潤度または唾液で評価していきます。

  • 加齢やお薬の副作用など、様々なことが原因でひきおこる
  • 唾液の役割が期待できず、細菌増加
  • 汚れが定着しやすく、虫歯や歯周病の進行
  • 味覚低下、食べづらい、話しづらい

〈口腔乾燥ケア〉

  • お口をしっかり動かしましょう
  • 唾液腺マッサージを1日3回程度行いましょう
  • ジェルなどのお口の保湿剤を使いましょう
  • お口の渇きを引き起こすお薬について確認しましょう
  • 水分摂取をしましょう

3.咬合力

残存歯数などで咬合力を測定していきます。

  • 噛む力が低下すると、やわらかい食べ物を選ぶようになり栄養の偏り
  • 偏った栄養による、筋肉・体力の減少
  • 虫歯や歯周病などでグラグラしている歯

〈咬合力低下ケア〉

  • 虫歯・歯周病治療
  • 義歯の製作・調整
  • 定期健診・クリーニング
  • 歯応えのある食べ物を食べる
  • 噛む筋肉を鍛える

4.舌口唇運動機能

口腔機能測定器、健口ハンディで測定します。

  • 舌と唇の運動機能が低下すると滑舌が悪くなる発音問題
  • コミュニケーション問題
  • 食べこぼしなどによる食事の楽しみの喪失
  • 食べ物が口腔内に残留しやすく、口腔不潔問題

〈下口唇運動機能低下ケア〉

  • パタカラ体操
  • あいうべ体操
  • カラオケ
  • 早口言葉や滑舌の練習
  • 無意味音音節連鎖訓練
  • 専門器具を使用し、舌の力を鍛える

5.舌圧

舌圧は舌圧測定器により評価します。

  • 咀嚼・嚥下に支障をきたし、低栄養に陥る危険性が高くなる
  • 加齢などで身体の筋肉が少なくなると舌圧低下
  • 誤嚥、肺炎のリスク

〈低舌圧ケア〉

  • 舌の可動域訓練
  • 舌の硬音訓練
  • 舌の抵抗訓練
  • 頬の抵抗訓練
  • 無意味音音節連鎖訓練
  • ペコぱんだ

6.咀嚼機能

検査用のグミゼリーを用いて咀嚼機能の評価をします。

  • 咀嚼機能が低下すると消化不良・誤嚥のリスクが高くなる
  • 唾液分泌低下
  • 舌口唇運動機能低下
  • 歯の欠損や不適合な補綴物の影響
  • 歯周病による歯の動揺で咬合力が低下し、食物の切断・破砕粉砕に影響を及ぼす

〈咀嚼機能低下ケア〉

  • 咬合支持の確率
  • 義歯の製作・調整
  • 虫歯治療
  • 歯周病治療
  • 一口20~30回噛む事を意識するなど咀嚼回数を増やしましょう
  • ガム噛みトレーニング

7.嚥下機能低下

EAT-10による質問紙票によって診断します。

  • 十分な栄養や水分を摂取できなくなり、脱水症状や栄養失調
  • むせ、誤嚥、肺炎のリスク

〈嚥下機能低下ケア〉

  • 嚥下おでこ体操
  • 開口訓練
  • シャキア訓練
  • ボールを用いたトレーニング

『トレーニング』

舌ブラシ

一方向のみ「奥→前」にブラシをなぞります。
※ブラシを乗せて、引っ張る程度の力で!
押さえつけないようにしましょう!

数日に1回、多くても1日1回磨きましょう

 ①. 鏡を見ながら舌をできるだけ前方に突き出します
 ②. ブラシのハンドル部位を軽く握り、舌表面にブラシを当てていきます
 ③. 軽い力でゆっくりと前方に引き出すようにして数回ブラッシングします
 ④. ご使用後はブラシをきれいに洗い流して、通気性のいい所に保管して下さい

ペコぱんだ

 ①. 使用後は、トレーニング部位を指で2.3回押しつぶす
 ②. ペコぱんだをくわえる
 ③. トレーニング部を舌の上にのせて位置決め部を歯でくわえる
 ④. 舌でトレーニング部を繰り返し押しつぶします

 1日3回
 5回3セット または 10回3セット

舌抵抗訓練

 ①. 舌を突き出して、スプーンと押し合う
 ②. 舌を上に上げて、スプーンと押し合う
 ③. 舌を左右に動かして、スプーンと押し合う

10~15回 × 3セット

唾液腺マッサージ

お口の中から唾液が減ってしまうと、細菌が繁殖しやすくなって口臭が強くなる原因となります。歯周病や虫歯も繁殖しますので、これらの危険性も高まるということになります。お口の中の乾燥を防ぐには、手軽にできる唾液マッサージが有効です。

1.耳下腺マッサージ

耳たぶのやや前側、上の奥歯あたりを指全体で優しく押しながらマッサージします。

5~10回繰り返しましょう

2.顎舌腺マッサージ

顎の骨の内側に指をあて、耳下から顎の先まで優しくマッサージします。

こちらも5~10回繰り返しましょう

3.舌下腺マッサージ

顎の先のとがった部分の内側を、下あごから舌を押し上げるように押します。自分で行う場合は両手の親指を使うといいでしょう。

こちらも5~10回繰り返しましょう

ガムトレーニング

  • ガムが柔らかくなるまで噛みます
  • ガムを噛むときは口を閉じ、左右均等になるように噛みます
  • ガムを口の中でボール状に丸めます
  • ガムを上あごのスポットの位置から舌で「ぎゅー」と押して円状に広げましょう

開口訓練

①.ゆっくり大きく開け 10秒間保持する
②.しっかり口を閉じて 10秒間休憩する

1日10秒 2セット
朝・夜やってみてください

お口を開く時には、無理をしない程度にしましょう

ベロ出しごっくん体操

①. 舌を少し出したまま口を閉じます
②. 力強く「ごっくん」と唾を飲みこみます
③. これを5回ゆっくり繰り返します

5回1セットを毎食前に
ベロをあまり出しすぎないのがポイントです。

お口の準備体操

  •  鼻から大きく吸って止める
  •  口からゆっくり吐き出す
  •  1と2を3回繰り返します
  •  息を吸いながら肩を上げて
  •  吐き出しながらストンとおろす
  •  1と2を3回繰り返します
  • ゆっくり後ろを振り返る(左右とも)
  • ゆっくり首を倒す(左右とも)
  • 前に倒し起こす
  • ゆっくりと左回り右回りに回す
  • 1~4を3回繰り返す

グー・パー・ぐるぐる・ごっくん・パー体操

  •   目をしっかり閉じ目玉は下方に。口は口角を上げしっかり閉じる
  •   目は大きく開き目玉は上方に。口は大きく開く
  •   口を閉じたまま舌に力を入れ、口唇の内側を舐めるように回す
  •   ココで溜まった唾をごっくん
  •   舌の先に力を入れ、しっかり前に出す(10秒キープ)
  •   1~5を1日3回やってみましょう

フルフルスポット 舌のトレーニング

①. 大きく口を開ける
②. 口を開けた状態のまま、舌の先が口角に触れるよう交互に動かす。左右に振る際、舌の顎も一緒に動かさないよう注意しましょう
③. 舌を左右に振り、途中で「スポット」を声をかけてもらい舌の先をスポットの位置にあてる

1日6回 2セット

舌の体操

 ①. 舌を左の頬の内側に強く押しつけます
 ②. 自分で指で、口の中の舌の先を、頬の上から押さえる
 ③. それに抵抗するように、舌を頬の内側にゆっくり10回押しつけます
 ④. 右の頬でも同じことを繰り返します

舌のトレーニング

 ①. 口を大きく開けて、舌をできるだけ出します
 ②. 上唇の舌の先で触ります
 ③. その後、左右の口角を舌の先で触ります。この動作を3回繰り返しましょう

舌のトレーニング

 ①. 舌を下に出す
 ②. 舌を上に出す
 ③. 舌を右に出す
 ④. 舌を左に出す
 ⑤. 口の中で舌を右に回す
 ⑥. 口の中で舌を左に回す
 ⑦. 唇を舌でなぞる(右まわし)
 ⑧. 唇を舌でなぞる(左まわし)
 ⑨. 1~8を繰り返し3回行いましょう

あいうべ~体操 (くち・べろの運動)

  • 声は出しても、出さなくてもどちらでも可能です。
  • それぞれ1秒~以上かけて、ゆっくり大きく動かします。

①.「あ~」と口を大きく開け、1秒キープします
②.「い~」と思い切り横に口を広げます。これも1秒キープします
③.「う~」と唇をとがらせて、大きく前に突き出し、1秒キープします
④.「べ~」と舌を出します。前に出すのではなく、顎先に向かって伸ばすような感じで行いましょう。これも1秒キープします

 「あ~」「い~」「う~」「べ~」それぞれ1秒ずつキープして行います
 これを10回繰り返します。
 10回を1セットとし、1日に3セット
 入浴中や就寝前がおすすめです。

パタカラ体操

パタカラはお食事前がおすすめです。
運動前の準備運動と同じで、実際に食べる前に体操しておく事でお口や舌の動きが慣れて食事しやすくなります。
できるだけ習慣になるよう、続けてみて下さい。

【パ】…上下の唇 機能低下⇒吸う・飲むのが難しくなる
 口をしっかり閉じて発音する。唇を開け閉めする力を強くする

【タ】…舌の先 機能低下⇒食べ物を押しつぶせなくなる
 舌を上あごにしっかりとくっつけることで発音します。舌の先を強くする

【カ】…舌の奥 機能低下⇒飲み込みが難しくなる
 喉の奥に力を入れ、喉を閉める事で発音します。舌の奥の力を強くする

【ラ】…舌を反らせる 機能低下⇒食べ物を丸められなくなる
 舌を丸め、舌先の上の前歯の裏につけて発音します。舌を巻く力を強くする

舌と頬のトレーニング

 ①. 両頬を膨らませます
 ②. 右頬を膨らませます
 ③. 左頬を膨らませます
 ④. 両頬を膨らませます
 ⑤. 両頬をへこませます
 ⑥. 上唇を膨らませます
 ⑦. 下唇を膨らませます
 ⑧. 両頬をへこませます
 ⑨. 1~8を繰り返し3回行います

唇とほほの体操

 頬をふくらませた後
 すぼめる動きを数回します
 (水はなくてもよい)

 『ブクブク うがい』
 『ガラガラ うがい』
 を長めにするのも効果的
 (約10秒間)

口輪筋のトレーニング

 ①. 頬を膨らませて、舌を上顎に押し付け口から息がもれないようにこらえます
 ②. 次に、息をすうように口をすぼめます
 ③. この動作を3回繰り返しましょう

無意味音音節連鎖

 ①. 下記の単純パターン(1~10)を各5回行ってください
 ②. パターン表は各曜日ごとに横列で発音してください
 ③. 発音する時は、出来るだけ唇と舌を意識して動かす
 ④. ゆっくり・はっきり・大きな声で行ってください
 ⑤. 慣れてきたら、だんだん早く行えるように頑張りましょう

単純パターン(1日5回 1週間メニュー〉

横列で発声➡横列で発声➡横列で発声➡横列で発声➡横列で発声➡横列で発声➡横列で発声➡
日曜日月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日土曜日
① マカト① マダテ① カダマ① バダマ① バダカ① タダカ① テダマ
② マキト② マジテ② カジマ② バジマ② バジカ② タジカ② テジマ
③ マクト③ マズテ③ カズマ③ バズマ③ バズカ③ タズカ③ テズマ
④ マケト④ マデテ④ カデマ④ バデマ④ バデカ④ タデカ④ テデマ
⑤ マコト⑤ マドテ⑤ カドマ⑤ バドマ⑤ バドカ⑤ タドカ⑤ テドマ
⑥ マバト⑥ マダテ⑥ カバマ⑥ バダマ⑥ バダカ⑥ タダカ⑥ テバマ
⑦ マビト⑦ マジテ⑦ カビマ⑦ バジマ⑦ バジカ⑦ タジカ⑦ テビマ
⑧ マブト⑧ マズテ⑧ カブマ⑧ バズマ⑧ バズカ⑧ タズカ⑧ テブマ
⑨ マベト⑨ マデテ⑨ カベマ⑨ バデマ⑨ バデカ⑨ タデカ⑨ テベマ
⑩ マボト⑩ マドテ⑩ カボマ⑩ バドマ⑩ バドカ⑩ タドカ⑩ テボマ

嚥下おでこ体操 (飲み込みの筋肉トレーニング)

嚥下のおでこ体操では、嚥下に関わる筋肉を増やす・食堂の入り口が大きく開くように促す・食事をするための体の準備をしていきます。

 ①. おでこに手の付け根当て、手とおでこで押し合う
 ②. おへそをのぞき込むように、おでこを下方向へ
 ③. のど仏周辺に力が入るようにして5秒間キープする
 ④. 1~3を繰り返します

シャキア訓練 (飲み込み筋肉のトレーニング〉

シャキア訓練は喉の筋肉(舌骨上筋の筋力)を強化し、咽頭の前上方への移動を改善することによって食堂開口部の前上方への移動を改善することによって食堂開口部の開大を目指すトレーニングです。

 ①. 横になり、爪先を見る様に頭を持ち上げ首に力が入る事を意識します
 ②. 30秒から60秒頭を上げ続けます
 ③. その後頭を下して1分間休みます
 ④. 1~3を繰り返します