一般歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科
- 緊急の際は
お電話ください - 0465-74-0781
「マイナス1歳からの歯科予防」という言葉をご存じでしょうか。
マイナス1歳とは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる妊娠期のこと。つまり、お子さまのむし歯予防は生まれてからではなく、妊娠中から始めるべきだという考え方です。

近年、予防歯科の分野では「KEEP28」という理念が広がっています。これは28本の永久歯を生涯にわたって健康に守ろうという目標です。実際に、幼児期から継続的にメインテナンスを受けているお子さまの12歳時点でのむし歯ゼロ率は90%以上という、歯科先進国スウェーデンにも匹敵する成果を上げている医院も出てきています。
当院では、この「マイナス1歳からの予防」という考え方を大切に、妊娠中のお母さまと生まれてくる赤ちゃんのお口の健康を守るマタニティ歯科に力を入れています。

生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、虫歯の原因となるミュータンス菌は存在せず、無菌状態でスタートします 。しかし、成長するにつれて、どこからか虫歯菌が入り込み、定着してしまうのが現実です。
かつては「親の唾液感染を防ぐために、食器の共有をやめましょう」と強く言われていました。もちろん、唾液を介してご家族の虫歯菌が赤ちゃんに移ることは事実です 。
しかし、最近の研究では、感染経路は唾液だけでなく、環境中のあらゆるものが経路になり得ると考えられています。つまり、どんなに食器の共有やキスを制限しても、日常生活を送る上で菌の感染を完全に防ぐことは非常に難しいのです。
「感染させないこと」に神経質になりすぎて、スキンシップが減ってしまっては本末転倒です。感染を完全に防げないからこそ、当院では以下の2つのアプローチを大切にしています。
赤ちゃんに入ってくる菌の「数」や「悪さ」を減らすアプローチです。赤ちゃんと接するご家族のお口が清潔であれば、もし菌が移ったとしても、そのリスクは低くなります。妊娠中に治療を済ませ、メインテナンスを受けておくことは、赤ちゃんへの一番のプレゼントです 。
虫歯菌は、ショ糖(砂糖)をエサにして増殖し、酸を出して歯を溶かします。逆に言えば、菌が感染しても、エサとなるお砂糖がなければ虫歯は発生しにくいのです。
甘いお菓子やジュースを与える時期を可能な限り遅らせること、ダラダラ食べをさせないことが、感染対策以上に重要な予防となります。
むし歯菌が赤ちゃんのお口に定着しやすい時期があります。それが、乳歯が生え始める生後1歳7か月(19か月)から乳歯が生えそろう2歳7か月(31か月)頃までの約1年間。歯科ではこの期間を「感染の窓」と呼んでいます。
この時期にむし歯菌が大量に感染してしまうと、お口の中の細菌バランスにおいてむし歯菌の割合が高くなり、その後もずっとむし歯になりやすい口腔環境が続いてしまいます。
逆に言えば、この「感染の窓」の時期に感染を最小限に抑えることができれば、3歳以降はむし歯菌に感染しにくくなり、生涯にわたってむし歯になりにくいお口を手に入れることができるのです。

ここで重要なのが「マイナス1歳からの予防」です。
赤ちゃんへのむし歯菌の感染を防ぐためには、まずお母さん自身のお口の中のむし歯菌を減らしておくことが最も効果的です。妊娠中にむし歯の治療を済ませ、定期的なクリーニングでお口の中を清潔に保つことで、出産後の赤ちゃんへの感染リスクを大幅に下げることができます。
実際に、お母さんにむし歯がある場合、お子さまがむし歯になるリスクは約3倍になるという研究データもあります。
妊娠中のお口の健康管理が重要なのは、むし歯菌の感染予防だけではありません。歯周病と妊娠の関係についても、近年多くの研究で明らかになっています。
1996年にアメリカで発表された研究によると、歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんと比べて、早産(妊娠37週未満での出産)や低体重児出産(出生体重2,500g未満)のリスクが約7倍も高いという衝撃的な結果が報告されました。
このリスクは、喫煙や飲酒、高齢出産によるリスクよりも高い数値です。妊娠中の歯周病がいかに深刻な問題であるかがおわかりいただけると思います。
歯周病が進行すると、歯ぐきの炎症部分から「炎症性サイトカイン」という物質が放出されます。この炎症性サイトカインは血液に乗って全身をめぐり、子宮にも到達します。
実は、この炎症性サイトカインには子宮を収縮させる作用があります。これは陣痛促進剤と同じような働きをするため、まだ出産の準備が整っていない時期に子宮が収縮を始め、早産を引き起こしてしまう可能性があるのです。
また、歯周病菌そのものが血液を通じて胎盤に到達し、胎児の発育に悪影響を与えるという報告もあります。
困ったことに、妊娠中は歯周病のリスクが高まる時期でもあります。
妊娠すると女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の分泌量が通常の10〜30倍にまで増加します。実は、一部の歯周病菌はこの女性ホルモンをエネルギー源として活動するため、妊娠中は歯周病菌が爆発的に増殖しやすい環境になるのです。
これに加えて、つわりによって十分な歯みがきができなくなる、唾液の分泌量が減って自浄作用が低下する、間食の回数が増えるなど、複数の要因が重なって、妊娠中はお口のトラブルが起きやすくなります。
妊婦さんの約半数に歯ぐきの腫れや出血などの歯周病の症状が見られるというデータもあります。「妊娠性歯肉炎」という言葉があるほど、妊娠と歯周病は密接な関係にあるのです。
「妊娠中に歯医者に行っても大丈夫?」「レントゲンや麻酔は赤ちゃんに影響しない?」
このような不安をお持ちのお母さまも多いのではないでしょうか。結論から申し上げると、妊娠中でも安心して歯科治療を受けていただけます。

歯科用レントゲンの放射線量は非常に少なく、1回の撮影で受ける線量は約0.01ミリシーベルト程度です。これは、日常生活で自然界から1年間に受ける放射線量の100分の1以下という極めて微量な数値です。
また、撮影部位はお口であり、お腹から離れています。さらに、撮影時には鉛の防護エプロンを着用していただきますので、赤ちゃんへの影響はほぼないと考えていただいて問題ありません。
歯科治療で使用する麻酔は局所麻酔です。使用する量もごくわずかで、注射をした部分で分解されるため、胎盤を通じて赤ちゃんに届くことはありません。
実は、歯科で使用する局所麻酔薬は、帝王切開や無痛分娩でも使用されるものと同じ成分です。むしろ、痛みを我慢しながら治療を受けることのほうが、お母さまにも赤ちゃんにも大きなストレスとなります。必要な場合は、遠慮なく麻酔を使用してください。
妊娠中はできるだけお薬の服用を避けたいところですが、治療上必要な場合は、妊婦さんでも比較的安全に使用できる薬剤を選んで処方いたします。ご心配な場合は、かかりつけの産婦人科医と連携して対応いたしますので、お気軽にご相談ください。
つわりがひどい時期です。歯ブラシをお口に入れることすら辛いという方も少なくありません。この時期は無理をせず、体調の良いときに歯科検診を受けていただき、歯みがき指導を中心に行います。
治療が必要な場合でも、この時期は応急処置にとどめ、本格的な治療は安定期まで待つことをおすすめしています。
いわゆる「安定期」です。つわりも落ち着き、お腹もまだそれほど大きくないこの時期が、歯科治療を受けるベストタイミングです。
むし歯の治療、歯石の除去、歯周病の治療など、必要な処置をこの時期に済ませておきましょう。出産後は育児に追われて歯科医院に通う時間がなかなか取れなくなります。安定期のうちにしっかりとお口の環境を整えておくことが大切です。
お腹が大きくなり、診療チェアに長時間横たわることが辛くなってきます。また、早産のリスクも考慮して、この時期は大がかりな治療は避け、応急処置程度にとどめることが多いです。
出産後、体調が落ち着いてから本格的な治療を行いましょう。
赤ちゃんの乳歯の芽(歯胚)ができ始めるのは、なんと妊娠7〜10週頃。妊娠4〜5か月頃からは、この歯の芽にカルシウムやリンが沈着し、少しずつ硬い組織へと成長していきます。
さらに、一部の永久歯の芽も妊娠期から作られ始めます。つまり、お母さんのお腹の中にいる時期の栄養状態や健康状態が、生まれてくる赤ちゃんの歯の発育に影響を与えるのです。
「妊娠中は赤ちゃんにカルシウムを取られるから歯が弱くなる」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは正確ではありません。お母さんの歯からカルシウムが溶け出して赤ちゃんに届くということはありません。妊娠中に歯が悪くなるのは、つわりやホルモンバランスの変化によってお口のケアが難しくなることが主な原因です。
28本すべての永久歯を生涯にわたって健康に保つこと。これは決して夢物語ではありません。
幼児期からメインテナンスを継続することで、20歳になっても永久歯にむし歯がない状態を維持できることが、多くの研究や実践で証明されています。80歳になっても自分の歯でおいしく食事ができる——そんな未来をお子さまにプレゼントできるとしたら、これほど素晴らしいことはありません。
そのスタートラインが「マイナス1歳」、つまり妊娠期なのです。
お母さまのお口の健康は、赤ちゃんのお口の健康に直結しています。妊娠がわかったら、つわりが落ち着く4〜5か月頃を目安に、ぜひ一度歯科検診にお越しください。
当院では、妊娠中のお母さま、そして生まれてくる赤ちゃんのお口の健康を、出産後も継続してサポートしてまいります。お子さまの健康な歯という一生の宝物を、私たちと一緒に守っていきましょう。